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2015年12月07日

から弥太八さんに惚れ



   「あたいは、ここから若狭(わかさ)を通って京へ行くよ」
 疋田を出て少し行ったところで小万は立ち止まった。
   「弥太八は左耳の下に、大豆粒ほどのよく目立つ黒痣(くろあざ)があるのだよ」
 小万は、辰吉に向かって両掌を合わせて言った。
   「もし、伊勢の国生まれの関の弥太八という旅人に出会うことがあったら、後生だからその男に言っておくれな」
 関の小万と言う女が、京辺りの飯盛旅籠で働いているから、もし弥太八が怪我でもしているようなら、あたいが一生面倒を看るから訪ねてきておくれ、元気でいるなら、金の無心に来てくれてもいいから顔を見せておくれと言っていたと伝えてほしい。小万は、辰吉に言伝(ことづて)を頼んだ。
   「姐さんは、こころの底ていなさるのだな」 
 辰吉は、「きっと伝えるよ」と、気休めで言ったのではなく、積極的に捜してやろうと心に誓って言ったのであった。

 小万と別れて、辰吉は敦賀(つるが)の宿場町に入った。その後、三度笠の男と出会うと、辰吉は笠の内を覗き込み、左耳の下を見てしまうのであった。
   「おい、そこの若けぇの」
 辰吉は、覗いた男に声をかけられた。
   「へい、俺ですかい?」
   「そうだお前だ、何故にわしの顔を覗き込む」
   「済まねえ、人を探しているもので、失礼さんとは知りつつ覗いてしまいやした」
   「旅鴉は、脛に傷を持っているものだ、下手をすれば追っ手と間違えられて斬り殺されるかも知れねえ」
   「ご忠告、有難うさんにござんす」
   「うむ、以後気を付けるのだぞ」
   「へい」

 辰吉、殊勝な態度で忠告を受けておきながら、またしても男の顔を覗きこんでしまった。
   「そこのいい男、わっしは構わないよ」
   「ん?」
 辰吉、きょとんとしている。
   「行くかい?」
   「どこへ?」
   「わたしの家は無理なので、夜まで待って神社へ行くか、いま直ぐなら出会茶屋だな」
   「何をするのだね?」
   「そんなこと、分かっていて誘ったのだろ」
   「わからん」
 男は、辰吉の手を引いて、出会茶屋へ行こうとした。

   『辰吉、手を振り払って逃げなさい』
 新三郎が注意をした。 
   「何故?」
   『このまま付いて行くと、とんでもないことになりますぜ』
   「どんなこと?」
   『布団の敷いてある部屋へ連れて行かれる』
   「昼寝に?」
   『そうだ』
   「眠くない」
 新三郎は焦れた。
   『いいから逃げなさい』
 辰吉は興味をもってしまった。
   「新さん、行こうよ」
   『言っても聞かないのなら、勝手に行きなさい』
   「うん」
  


Posted by yigdfda at 17:17Comments(0)