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2016年01月15日

客やあらしませ


 三太と辰吉は、腹がたった。憎む相手を陥れるために、罪のない相模屋の店主から金を騙し取るとは、造り酒屋の信用問題にもなりかねない何とも卑劣な手段を取る男なのだと、勝蔵が気の毒になった。
 父である先代が考えた末に、作造と勝蔵のどちら如新に後を継がせるかを決めたのであり、勝蔵を選んだのにはそれなりの理由があったのだろう。
 三太と辰吉は、近所の造り酒屋に寄り、横綱酒造の作造と一緒に辞めた杜氏の消息を尋ね歩いた。いや、尋ね歩く必要はなかった。最初に尋ねた店で、すぐに分かったからだ。
   「大きな声では言えませんが、作造さんは追い出されたのでっせ」
 勝蔵の話では、勝手に出て行ったと言っていた。近所の噂では、追い出されたと言う。噂というものは、尾鰭が付いて歪曲するのだ。噂話はそこそこに聞いて、棲家だけをしっかり訊いてきた。
 作造は一緒に辞めた独り者の杜氏の家に転がり込んで、そこから二人共小さな造り酒屋に通いの杜氏兼店の使用人として働かせて貰っているのだそうである。
   「お邪魔します」
   「へい、いらっしゃいませ」
 出てきたのは、人の良さそうな白髪の老人だった。
   「今年は美味しい酒が出来ました、先ずは試飲をどうぞ」
 酒器専用の棚から小さな杯を二つ取り出した。
   「済んません、わいらは酒を買いに来搬屋服務たん、ちょっちお聞きしたいことがおまして…」
   「そうだしたか、それはどうも早とちりでした」
 それでも、酒を注ぐ手は止めなかった。
   「ここで作造さんという方が働いていると聞きまして…」
   「へえ、作造坊ちゃんは、奥においででおます、お呼びしてきますので、これを飲んでお待ちください」
 老人が奥に入ると、直ぐに歳を取った男と若い男が前垂れを外しながら出てきた。
   「お待ちどうさまでおます、私が作造で、こちらが横綱酒造で杜氏をしていた文吉ですが、どちら様でいらっしゃいます?」
   「大坂の酒店相模屋の番頭ですが」と頭を下げ、三太は詐欺の経緯から、横綱酒造で聞いてきたことを全て話した。  


Posted by yigdfda at 13:05Comments(0)